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原発事故と小児甲状腺ガンの多発

2013-08-31

福島県で、子どもの甲状腺がんが発症しています。率直なところ、「小児甲状腺ガンの多発」と言ってよい、深刻な状況がおこっていると思っています。

福島県の「県民健康管理調査『甲状腺検査』の実施状況について」が、8月20日に公表されました。

放射性物質による健康被害は、外部被ばくによるものと、内部被ばくによるものに分けられます。

内部被ばくによる健康被害は、日本を含めて国際的に軽視されてきた経緯があるようですが、チェルノブイリ原発の事故(1986年)の後、子どもに甲状腺がんが多発し、これが放射性ヨウ素(ヨウ素131)による内部被ばくによるものだということが明らかになりました。水素爆発を起こし莫大な放射能を放出した福島第一原発の周辺地域でも、甲状腺ガンの発症が増えるのではないかと心配されています。

そのため、福島県では、2011年3月11日に18歳以下であった36万人について、順次、甲状腺検査を進めています。平成23年度から今年の7月31日までの状況をまとめたのが今回の発表です。

現在、平成23年度と平成24年度の検査対象者の中で、合計43人が、甲状腺がんまたは甲状腺がんの疑いとされています。

一次検査の結果が確定した192,886人(二次検査の結果が確定していない平成25年度分を含む)に対して、43人ですから、

   192,886人÷43人≒4486人

およそ4,500人に1人の割合で、甲状腺がん(「疑い」を含む)が見つかったことになります。これは「有病率」というべきものではないかと思います。

甲状腺がんは子どもはかかりにくい病気とされ、多目にみて100万人に1~2人とされています。これは「発症率」というべきものです。

有病率と発症率を単純に比較することはできません。

通常はある集団の全員について、甲状腺がんの有無を調べたりはしませんから、今、福島で行われている調査結果のデータは、比較の対象がないのです。わざわざ検査をしなければ甲状腺がんだと気づかない例も、今回の調査では見つかるわけです。

  (有病率)>(発症率)

となるのは、当然です。

それにしても、4,500人に1人というのは、大変な数字です。

しかし、このニュースは、8月21日の新聞報道でとても小さく扱われました。その理由は、この検査結果と原発事故との関係が「否定」されているからだと思われます。


 

 

中日新聞では、8月21日朝刊の2ページに、福島第一原発の汚染水漏れの記事の下の方に掲載されました。

「子の甲状腺がん 福島県18人確定 原発事故影響は否定」という見出しの2段の記事です。まったく目立たちません。

福島県の子どもの甲状腺ガン 中日新聞2013-08-20 2p 299KB.jpg

 

朝日新聞は、同日、「福島の子どもの甲状腺がん、疑い含め44人に 16人増」という見出しで報じました。(「16人増」というのは、前回の公表と比べた数字です。)

中日の「18人」と、朝日の「44人」では、ずいぶん印象がちがいます。

この違いをどう受け止めたらいいのでしょうか。


そこで、福島県が公表した、第12回「県民健康管理調査」検討委員会(平成25年8月20日開催)の当日配布資料のうち「資料2」の該当部分(➁-5)を見てみると、次のように書かれていました。

平成23-24年度合計

 ・悪性ないし悪性疑い 44例 (手術19例:良性結節1例、乳頭癌18例)

 ・男性:女性       18例:26例

 ・平均年齢        16.6±2.7歳

                (8-21歳、震災当時14.7-2.7歳6-18歳)

 ・平均腫瘍径      15.4±7.6㎜ (5.2-34.1㎜)

ここから読み取れるのは、次のような意味です。

「細胞診」という検査によって、ガン細胞と見られる細胞の異常が見つかり、「甲状腺がんの疑いがある」と診断された44人のうち、19人が手術を受けた。そのうち18人が甲状腺がんの分類のひとつである「乳頭癌」だったと確定し、1人は「良性結節」であったと確定した。のこりの手術を受けていない25人は今も「甲状腺がんの疑い」ということになっている。

「悪性ないし悪性の疑い」は44人だったけれど、1人は手術の結果、良性だとわかったので、これを除くと43人です。

この内容を理解するのに、私は、けっこう時間がかかりました。

たとえば、「乳頭がん」という言葉が何を意味するのか、何も知識がないのです。これは甲状腺にできるがんで、がん細胞が乳頭のような形状をしているそうです。こんな説明がありました。

頻度は80%と、甲状腺癌のなかでは最多である。女性に多く、好発年齢は30-50歳代。また、被曝によって生じる甲状腺癌のほとんどが本型であり、チェルノブイリ原子力発電所事故後に近隣地域で多発している。 (ウィキペデア「甲状腺癌」から抜粋)


医学知識に乏しい私には、最初、「甲状腺がんであると確定」した例と、「疑いがある」という例との違いも、はっきりわかりませんでした。

甲状腺がんであるかどうかを調べるのに精度の高い検査が、患部の「細胞診」なのだと思いますが、その検査の精度は100%ではないということを知りました。私には、検査の精度が問題だという知識が欠けていたのです。

それでは、検査の精度はどれくらいかというと、甲状腺がんの場合は90%だそうです。これは福島県放射線リスク管理アドバイザーの委嘱を受けている山下俊一氏が言っていることです。

実際、「甲状腺がんの疑い」で手術を受けた19人の内の18人は甲状腺がん(乳頭がん)でしたが、1人は、がんではなくて「良性結節」でした。手術をした結果わかったということです。この場合だけで見れば、検査の精度は95%くらいです。

したがって、手術を受けていない25人は、全員が甲状腺がんかもしれないし、がんでない人がふくまれているのかもしれません。細胞診の精度を90%程度とするなら、25人のうち多目に見積もれば2~3人は甲状腺がんではないという可能性もあるということになるのでしょうか。

25人の「疑い」が、全部、「まちがいだった」ということになればいいと思いますが、残念ながらそういうことは期待できないようです。

まとめると、細胞診で異常が認められても、「甲状腺がんの疑い」とされ、「がんであるとは確定しない」のです。甲状腺がん(乳頭がん)という診断が確定した18人とは、手術を受けた18人のことです。そして、疑いのある25人は、その大部分が甲状腺がんである可能性が高いということになります。

こういう場合、私たち素人が世間で話すときには、「43人が甲状腺がんらしい」、あるいは「甲状腺がんが40人くらい見つかった」と言うのだと思います。

このように考えると、「甲状腺がん18人」よりも、「甲状腺がん、疑い含め44人」の方が、事の重大さをより正しく伝えていることになると思われます。


福島県の子どもたちの甲状腺がんについて、調査をおこなった福島県立医大の鈴木真一教授の見解が次のように報じられています。

鈴木真一教授は、甲状腺がんはゆっくり大きくなるのが特徴と説明。確定者のがんの大きさなどから「二、三年以内にできたものではないと考えられる」と述べ、原発事故の影響に否定的な見解を示した。(中日新聞8月21日付抜粋)

このような説明で、納得せよと言われても、私には納得がいきません。

「甲状腺がんはゆっくり大きくなるのが特徴」ということを否定するつもりはありませんが、その通常の特徴が、放射性ヨウ素による内部被ばくの影響が心配されている福島の子ともたちにもそのまま当てはまるとどうして断定できるのでしょうか。その根拠がありません。


経験の無い大規模な放射線内部被ばくに関する疫学調査に、通常の経験則を安易に持ち込むことはつつしむべきではないかと思います。

もし、福島県の子どもたちにおこっていることが普通のことであると言いたいのであれば、福島原発の影響が限りなく少ない別の地域でも調査をして比較する必要があります。その別の地域でも、福島県と同様に、一次検査を受けた子どもたちの半数近くから甲状腺に結節嚢胞が見つかり、二次検査で同じような割合で甲状腺がんが見つかるのであれば、それで初めて、原発事故の影響を否定することができるはずです。

今のところ原発事故の影響を断定できないからと言って、あいまいな推測で原発事故の影響を否定してしまってよいということにはなりません。現実におこっている異常な事態について、現時点では、少なくとも「原発事故の影響は否定できない」と考えるべきです。


日本は東京電力福島第一原発事故を乗り越えなければならないのです。しかし、そのために事故の影響を小さくみせようという考え方には注意をしなければなりません。

子どもの甲状腺検査をおこなうのが福島県だけというのがそもそもおかしい話だと思いますが、福島県の調査結果が、たいした問題ではないということにされてしまえば、検査は広がらないでしょう。

同時に、原発事故の結果に対して、東電と国が負うべき責任が軽減されるということになります。

当然、原発再稼働をすすめるためにも利用されるということです。


 中日新聞が、シリーズ「日米同盟と原発」という記事を書いています。「被爆国・日本がなぜ原子力推進を国策として掲げ、世界有数の原発大国となったのか」という「根源的な謎に迫ろう」と考えてシリーズ化したものです。「日米同盟と原発」に、次のように書かれています。 

太平洋戦争末期、広島、長崎に相次いで投下された米軍の原爆。人類が初めて経験した「核の恐怖」だった。ところが、米国は占領下の日本で厳しい報道管制を敷き、大量被ばくの実態を公にしようとしなかった。原子力につきまとう隠蔽(いんぺい)体質は以後の歴史でも繰り返される。(2012年9月25日付中日新聞)

広島、長崎原爆投下から9年後、日本は再び核の悲劇に襲われる。太平洋のビキニ環礁沖で操業中のマグロ漁船「第五福竜丸」が米軍の水爆実験に巻き込まれ、乗組員23人全員が「死の灰」を浴びて被ばくする。最年長の無線長、久保山愛吉さん=当時(39)=は亡くなるが、米国は「原因はサンゴの粉じん」などと放射能との関連を否定。日本政府も追認する。(同上)

この延長線上に「原発安全神話」があり、福島原発事故があります。そして、私たちはまだ、原発安全神話の歴史の延長線上にいるのです。真実が歪められるということに、十分注意をしなければなりません。

 


 

***** リンク *****

福島県 「県民健康調査」検討委員会について

http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24809

中日新聞 シリーズ「日米同盟と原発」

第10回「証言者たち

http://www.chunichi.co.jp/article/feature/arrandnuc/


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