ハスの花がひらくとき
2014-07-06
大賀ハス(岐阜県羽島市)
みごとなハスの花を見てきました。
岐阜県羽島市には「大賀ハス園」というハスの名所があります。以前から行ってみたかったのですが、思い切って早起きをして見に行きました。
私の知るハスの名前は「ハス」と「大賀ハス」(おおがはす)の2つだけ。品種名で知っているのは大賀ハスだけです。
愛知県新城市の妙躰寺(みょうたいじ)は別名「ハス寺」と呼ばれているそうです。
境内には100瓶(びん)70種のハスがあるとことで、そのハスの花が咲きはじめたと二週間ほど前のニュースでききました。
70種ものハスが栽培されているとは驚きでした。
全国のハスの名所を調べてみたところ、千葉県香取市の「水郷佐原水生植物園」には、300種以上のハスがあり品種の数では日本一だそうです。
いったいどれだけの品種があるのかわかりません。
ひとりの人間の知ることができる範囲など、ちっぽけなものだと改めて思い知らされます。
しかし、ハスの品種の数よりも、もっと知りたいことが私にはありました。
ハスは大きくて美しい花を咲かせます。
花のつぼみも大きい。
そのつぼみが開くとき音がするという話を何かで読んだことがありました。
もう30年以上も前のことです。
当時、私は信州善光寺の近くに住んでいて、善光寺の裏手には2つの大きな放生池(ほうじょうち)がありました。(今はそのひとつが埋め立てられて駐車場になっています。)
境内の趣とは異なり、コンクリートに囲まれた調整池のような風情もない池でしたが、ハスの花がたくさん咲きました。
朝、早く起きて、何度も見に行ったものです。
花の開く音を聞いてみたいものだと思っていました。
しかし、私の耳にはその音が、ついぞ聞こえたことがなかったのです。
そんなわけで、私は美しいハスの花をみるたびに、聞いたこともないハスの花の開く音を思い浮かべようとする妙なくせがつきました。
時折、誰かに尋ねてみても、誰もその音を知る人はいませんでした。
ハスのつぼみはどんな音を立てて花開くのでしょうか。
それとも、音がするというのは誰かの作り話なのでしょうか。
それは謎となって私の胸に長い間しまわれてきたのでした。
その答えにめぐりあったのは、ついこの前のことです。
偶然手にした幸田文さんの随筆の中にこんな一節がありました。
蓮の花は咲くとき音がするといわれているが、嘘かほんとか、試してみる気はないかーーそんなことをいわれると、私は夢中になって早起きをした。私のきいた限りでは、花はポンなんていわなかった。だが、音はした。こすれるような、ずれるような、かすかな音をきいた。あの花びらには、ややこわい縦の筋が立っていて、ごそっぽい触感がある。開くときそれがきしんで、ざらつくのだろうか。
〔幸田文著 「木」( 新潮文庫)所収 「藤」から引用〕
やはりハスの花が開くとき音がするのです。
それは静寂の朝、つぼみにそっと耳を寄せてはじめて聞こえる音なのだと知りました。
今朝、大賀ハス園に到着したのは午前8時頃。花は見頃でしたが、花の開く音が聞けたというわけではありませんでした。
でも、そのかすかな音を聞く機会がいつか有るかもしれない。
そうと思うと、何だかうれしくなるのです。
大賀ハス園の案内板
透明な丸い窓に白い文字で説明が書かれています。
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