パブリックサーバントについて
2013-08-18
「パブリックサーバント」という言葉がありますが、私はあまり好きではありません。
最初にこの言葉に注目したのは、河村たかし名古屋市長が使っているのを、テレビのニュースで聞いたときでした。
「公務員はパブリックサーバントやで・・・」
というような言い回しで、河村市長は何かを話していました。内容は忘れましたが、そのフレーズが耳に残りました。
「公務員は全体の奉仕者」
と憲法で定めているのですから、そう言えばよいのにと思いました。
なぜ、わざわざ英語を使って「パブリックサーバント」などと言うのでしょうか。
これを私のように英語に疎い者が誤訳すると
「公の僕(しもべ)」
あるいは
「公共の召使」
ということになります。
いやな感じだなと思います。
私が「パブリックサーバント」という言葉に感じるのは、公務員をことさらに見下すような、ある種の公務員蔑視です。
手元の古いデイリーコンサイス和英辞典を引くと
公務員 a public official [servant]
これは、公務員のことを「パブリックオフィシャル(a public official)」または「パブリックサーバント(a public servant)」と言うという意味です。
今度は、英和辞典を引くと
public 公の,公衆の;公共の;公立の;公開の;知れ渡った;国際的な
official 公務員,職員
servant 召使,雇人;奉仕者
もしも私が「公務員」を英語で言うのならば、「パブリックオフィシャル」を使うだろうと思います。
「サーバント」という言葉には「召使」というイメージがはたらくからです。
公務員を「公僕」(公の僕(しもべ))と呼ぶのが時代遅れであるように、
英語の「パブリックサーバント」も時代遅れではないかと思います。
これは、私の勝手な推測ですが。
日本国憲法は公務員について次のように規定しています。
日本国憲法第15条
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関して公的にも私的にも責任を問われない。
公務員は「全体の奉仕者」です。
「奉仕者」なのだから「サーバント」という言い方は何もおかしくないと言われそうです。
日本国憲法は、1946年11月3日公布ですから、およそ67年前。
当時の英語では、a public survant の方がよく使われていたのかもしれません。
これも、あくまで私の推測です。
今でも a pubulic servant がよく使われるのだとしたら、あまり感心できないなと思いますが、「奉仕者」を強調するときには、使われるということでしょうか。
日本語の「全体の奉仕者」という表現には、「僕(しもべ)」や「召使」というイメージはありません。
「公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」
という規定は、公務員という職種の本質を過不足なく簡潔に示して美しいと思います。
この部分を「英訳日本国憲法」で調べてみることにしました。あれこれ考えた挙げ句、そうすれば良いということに、やっと気づいたのです。
All public officials are servants of the whole community and not of any group thereof.
「公務員」は All pubulic officials 、「全体の奉仕者」は servants of the whole community となっていました。
「パブリックサーバント」が「公務員」という意味だとすると、
「公務員はパブリックサーバント」という言い回しは、「公務員は公務員」と言っていることになって、間抜けな表現になってしまいます。
最近使われている「パブリックサーバント」という言葉は、やはり「サーバント」に強調点があって、公務員をあえて下僕(げぼく)扱いする心根が透けているような感じがします。
こういうことを言うのは、だいたい公務員攻撃を売り物にする政治家ではないでしょうか。
公務員は自らを「パブリックサーバント」などとは言わないものです。
もちろん、公務員がおごり高ぶっていてはいけませんが、卑下することもありません。
公務員は「全体の奉仕者」として、誇り高く仕事をしてほしいものだと願っています。
議員も同様に公務員です。(正確には「特別公務員」と言いますが。)
私も、「パブリックサーバント」ではなく、有権者の代表である「全体の奉仕者」として議員の務めを果たしたいと思っています。
世の中には色々な人がいて、「パブリックサーバント議員が必要だ」と言って、「パブリックサーバント議員」を自認する人もあるのには驚きました。言わんとするところは、わからないではありませんが、そういう名称は遠慮したいと思いました。
やっぱり「全体の奉仕者」で良いと思います。
もしも憲法改正問題で
「第15条の『全体の奉仕者』は古い。『公務員はパブリックサーバントである』という条文に変えよう」
という提案があったら、迷わず反対するつもりです。
だれもそんなこと提案しないと思いますが。
ちなみに、自由民主党の日本国憲法改正草案では、公務員の規定を次のように改めるそうです。
現行 : すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
草案 : 全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
2カ所が変わっていますが、どこが「改正」なのかわかるでしょうか?
答えは、「すべて→全て」と、「あつて→あって」という部分。
私は今のままでもいいと思います。
むしろ「すべて」を「全て」に変えないほうが良いとさえ思います。
しかし、こんな改正が問題なのではありません。
改憲勢力のねらいは別の所にあります。
コメント 0